きき酒テクニック:生老ね(なまひね)

 保存管理によって、日本酒の健康状態、健全度が違ってきます。光に当たらないように、低温で保存しておく。新聞紙や箱に入れて、冷蔵庫の奥に立てたままの状態で置いておく。保存管理の基礎であり、大事なことです。

 しかし、このような状態でもお酒は熟成が進みます。それは生酒でも生貯蔵酒でも生詰酒でも、二度火入れされたものでも、すべてお酒は熟成していきます。

 一度も火入れされていない生酒の熟成は面白いです。冬に造られて、春先に出てくる生酒。流行りは「無濾過生原酒」であります。

 純米系も本醸造系もありますが、圧倒的に純米系が多いです。

 無濾過生原酒は搾った直後や発売された直後では、アルコール度が高く、激しい感じがしたり、荒れていたりすることが多いです。それを低温貯保存することで、落ち着いた香りと味わいになります。

 夏を越え、秋も深まりますと、まったりして、枯れた感覚があります。生酒ですから、フレッシュさもあり、時間が経ったための大人の落ち着きがあります。

 平成18年ものですから、3年冷蔵保存していました。このまったりした状態を好む方は非常に多いです。事実、このお酒は美味しいと思います。

 無濾過生原酒は活性炭濾過もせず、加水調整もしていませんから、香味が凝縮されています。エキス分が多いですから、時間が経つに連れて、変化していきます。この生酒の低温保存された特有の枯れたまったり感。きき酒用語としては、「生老ね」(なまひね)と呼びます。

 生老ねと書きますと、マイナスのイメージがつきます。これは生酒を低温保存しておけば、必ず喜ばれる香味になるとは限らないからです。その顕著な例がカプロン酸が多く含まれているお酒です。

 出来立てのカプロン酸(=へキサン酸)主体のお酒は華やかですが、これが時間が経ちますと、飲むには耐え難い香味になるものがあります。ドブ臭、雑巾臭などがあります。カプはヤギ臭いことに由来しています。

 ただし、カプロン酸エチルが多く、カプロン酸は微量のお酒は、カプロン酸主体のお酒とは違って、嗜好的には好まれる、まったりした枯れた味わいになることが多いです。

 カプカプのお酒などとつぶやく方が多いですが、カプロン酸とカプロン酸エチルの違いは押さえておきたいところです。その上にカプリル酸エチルもあります。カプロン酸アリルなどもあって、パイナップルの香りがして香料として使われています。


お酒の講座 / 丸河屋