日本酒の極め方 SBS学苑パルシェ 第6期

 ●SBS学苑パルシェ校 日本酒講座 「日本酒の極め方」第6期内容 2009/4〜9

日時

講議タイトル

内容

4月22日

「燗」

日本酒のみならず、他の酒類の燗もしましょう。

5月27日

「忠正」

3月に廃業した忠正のお酒を味わいます。

6月24日

「日本酒と風土」

各地のお酒を通して、風土を感じます。
岐阜の中津川市から三千櫻さんがゲストに登場。

7月22日

「誉富士パート2」

誉富士を使ったお酒から誉富士の特性をみます。

8月26日

「調味料とお酒の相性研究」

数々の調味料をと日本酒をあわせてみましょう。

9月16日

「生酒と火入れ」

生酒と前期に火入れしたお酒を比べます。

4月22日(水)  「燗」第31回

 お燗をしました。日本酒かと思いきや、日本酒以外でした。日本酒講座なのにねえ。でも今回の燗で新しい発見や、日本酒の再発見もされたことでしょう。そして今回が最初で最後の燗になる酒類もあるかと思います。

「燗」

 それは酒類を飲むために温めることです。低温殺菌同様に熱を与えます。飲むためにすることが燗であります。日本酒は飲用温度が世界中の酒類の中ではもっとも幅広く80゜くらいであります。燗は日本酒にとって、非常に重要な要素ですから、講座にも頻繁に取り入れています。

 日本酒は世界中に広まりつつあります。世界中の人々が日本酒を燗することを知りますと、それらの方々の国のお酒も燗することが予想されます。あるお酒が燗をして飲みにくかった場合、それを何とか美味しくしようとすることもはじまでしょう。そのような試行錯誤を何十年、何百年と重ねることで、新しい酒文化が築かれてきました。

 未来に思いを馳せて燗をする。大げさではありますが、今回の講座は試金石の一石になれたのではと、私は考えます。


 上のお酒の内で10種類も燗をつけました。前代未聞ですよ。

 「いやあ、よかった。また飲みたい。」or「思い出したくない」 どちらでしょうか。

 今回の講座ですべきは燗のみならず、火入れでした。

 2月にも同様のことをしてもらいました。すべては9月のためであります。9月が楽しみですね。

 さてさて、いろんな酒類の燗。

 日本酒の徳利を使いました。だれがどこから見ても日本酒にしか見えないでしょうね。

 知らない人に、はいどうぞって、ワインの燗でも出せば、どんなに驚かれることか。そういういだずらはやめておいた方がいいでしょう。

 赤ワインについては、シナモン+砂糖も入れて、飲んでもらいました。西洋版たまご酒であります。

 シナモン+砂糖は商品として発売されていますが、もちろんワイン用ではありません。トーストに振り掛けるためだそうです。


 数々のお酒は燗をしても、色とりどりであり、きれいですね。

 ここまできますと、前回の講座もよ〜く思い出されてきたことでしょう。私はとっても心配でありました。この企画。まるっきりはずしはしないか。寒〜いって顔されないか。その結末は私にはわからないのが、正直なところであります。

 お酒類の燗の結末は意外な発見がありました。意外がゆえに、まだメーカーも手をつけていない分野でもあります。その意味では今回の講座は成功か。

「結果」


 1つづつ見ていきましょう。

 赤ワインは×がないことから、悪くはないということですね。
 白ワインは温めない方がいい。
 ビールは温めるべきではない。
 焼酎は温めて美味しい。
 ウィスキーとブランデーは個人差が多く、一概に判断できない。
 ラムは温めるべきでない。
 ジンは温めない方がよい。
 みりんも温めない方がよい。
 梅酒は温めてもよい傾向があるのではないか?

 このようになりました。

 焼酎はお湯割りが普通に飲まれていますから、燗をしてもそれなりに通用すると思われます。やはり、この酒類の中では一番燗向きでした。

 梅酒は意外でしたね。焼酎ベースの梅酒でここまでよかったことから、日本酒ベースの梅酒も期待できるのではないでしょうか。今度の冬はホットな梅酒で温まりましょう。

 講座的にもこれは偉大なる収穫でありました、と自負したいところです。

 おつまみはお酒がバラエティーなので、多様性を持たせました。

 この後から日本酒を飲みましたが、燗はしっくりきます。同時に冷たいビールも美味しかったですね。しつこいようですが、ホット梅酒。おぼえていてください。

5月27日(水)  「忠正」第32回

 2009年3月をもって廃業した忠正。偲びながらのお勉強となりました。倒産ではなく、廃業ということも御理解いただきました。資産があるのはうらやましいですね。忠正を振り返ってみましょう。

 8本の忠正を偲んでもらいました。

・大吟醸 H20静岡県新酒鑑評会出品酒
・純米吟醸
・特撰
・鬼ころし
・海舟の山廃
・安倍街道
・忠兵衛
・大吟醸 H19by

 お酒は教室で十分テイスティングされましたので、個々の詳細はカットします。また、忠正の歴史などもテキストに書いてありますので、ここには書きません。教室では話すことができなかったことについて、ずらずらと書かせてもらいます。

 有名な蔵元の杜氏は名杜氏と持ち上げられています。確かに立派な杜氏さんは多いと思います。しかし売れている蔵元は売れていない蔵元さんよりも財力があります。売れている蔵元さんの社長さんは酒造りに情熱を傾けている人が多いです。ですから、杜氏の腕云々よりも、全体的な環境が良いことになります。

 忠正の中島杜氏の腕はどうか?
 わからないですよね。

 だって、有名な蔵元の杜氏さんと違って、雑誌などにも登場しませんし、飲み手の方々からも話題にはなりません。

 私はそれでいいと思っています。仕事は人に見せるものでもないし、見えない部分が大事だと思います。

 私はずっと中島杜氏の仕事っぷりを見てきました。精米、洗米、吸水などにはじまり、搾りやおり引きで蔵人の担当作業は終えるのが普通です。

 忠正には小型の精米機があります。蔵元で精米機を持っているのは、ある程度の数量を造る蔵元さんであります。300石足らずの忠正で精米機を持てているのは、精米機の騒音が近所迷惑にならないからです。隣の民家とは離れていますし、賎機山もバックにあります。

 本来精米されたお米を使いますから、自社精米しなくても良いのですが、中島杜氏は入荷した米を見て、もう少し磨いた方がいいと思った場合は、わずかなパーセンテージでも、磨いていました。私は横で見ていたことがありましたが、蔵人が少ないから、こんなことまで杜氏がしなくてはいけないのさと、言われたことがありました。

 大吟醸などの出品酒に関しては妥協を許さない杜氏さんは多いです。しかし、中島杜氏の場合は本醸造クラスに使う原料にまで気を使い、手間暇をかけていました。

 吸水とはお米を洗い、水を吸わせるために、袋やザルに入れた白米を水の中に、必要な時間だけ入れておくこと作業です。吸水率は一般的には30%程度なのですが、中島杜氏は違っていました。中島杜氏の吸水率の数字は申し上げられませんが、私の経験値の中にはありませんでした。正直びっくりさせられたものです。

 仕事っぷりと言われますが、中島杜氏は難しいことも、簡単に手短に行なっていた印象があります。仕事がきれいなために、ひとつひとつの作業が着々と進行していきました。確実であって、手際がいい。このことについては、彼に勝る杜氏はいないのではと思っています。

 平成17年のことだったと思います。忠正の大吟醸が静岡県の鑑評会で1位になりました。HD-1という静岡酵母を使ったこの時の大吟醸のイソアミルの数値が10ppmを越えていました。これまでにHD-1で醸されたお酒では香りが高くても、8ppmが限度。ですから、中島杜氏は他の何かを使っているのではと、噂されました。以来、3年間はHD-1を使わずに、NEW-5を使うようにしました。

 他の杜氏と同じ酵母を使うと、他の杜氏よりも香りが高く出てしまう。だから、他の杜氏とは違った酵母の選択をして、変な噂が立たないようにしていたようにも思えました。

 私はこの時点では、静岡県内の杜氏ではNO.1ではないかと確信できました。その中島さんが造った数々の名酒たち。大吟醸以外にもあります。

 「安倍街道」

 特別本醸造であります。忠正の前の通りが安倍街道であり、安倍街道筋の酒販店にとって売りやすいのではと命名されました。発売が平成4年です。翌年の平成5年の静岡県清酒鑑評会において、本醸造の部で首位を取りました。

 現在は本醸造の部はありませんが、その当時は普通酒の部もありました。これらの部がなくなった理由は、出品するお酒の中味が市販の本醸造や普通酒ではなく、吟醸酒を入れられているからです。

 平成5年に首位を取った安倍街道は市販酒そのものでありました。ほんとの本醸造で堂々と首位を取ってしまったのでありました。

 「海舟の山廃」

 平成8年11月のある日、蔵入りの日でした。杜氏が社長に打ち明けました。「実は心臓にわるいところがあり、手術がどうしても必要なので今年は早めに帰りたい、そして万が一の時に後悔しないように山廃を一本造らせてくれないか」と。 こう言われれば誰も断われません。このように海舟の山廃が始まりました。

 私は造りの最中に気になり、何度も蔵元を訪れたものです。杜氏さんは「これが山廃の酒母3日目の味だ」「これが山廃の酒母1週間目の味だ」と熱心に教えてくれました。

 翌年の2月のある日蔵に行きますと、タンクにメモが貼ってありました。「9月までこのままにしておくこと。決して空けてはいけない。火入れは-----。」帰る日も告げず帰ってしまった後でした。

 私はこう思います。昔は全部乳酸無添加のキモト造りや山廃造りでした。彼もこれまでにも山廃を造った事はあるはずです。しかし杜氏という全責任者になってからは造った事はない。だから今まで酒造りを教えてくれた人達と自分に対しての挑戦であり恩返しである、と。

 心臓が悪くて、引退するかもしれない。その遺作としての1つが海舟の山廃だったのかもしれません。海舟の山廃は平成9年から発売となりました。燗上がりする辛口の純米酒として人気がありました。

 「忠兵衛」

 平成13年に発売された超辛口であります。本醸造です。御客様の御要望は辛口が多くなっています。どうせなら静岡でも一番辛いお酒。しかも飲みやすくて、さっぱりしていて、飲み飽きない。飲めば飲むほどに欲しくなるお酒。酒好きの気持ちを考えた商品設計であります。

 この忠兵衛は日本酒度が+15で、数値的には静岡県で一番辛くなります。
 その造り方はどうやっているのか?
 それが変則五段仕込であります。

 蔵内の方から言われました。このお酒は必ずできるとは限らないです。それだけ大変なお酒なんですよと。

 大吟醸に対してはありがたみを感じる人が多く、技の結晶かと思われています。それよりも難しいお酒があるのですね。私は思います。このお酒を造れるのは中島さんしかいないと。お酒からは見えない影となっている製造側の様子として、杜氏について語りました。

 忠正の電話番号は054-271-0005です。電話が引かれた時の番号は5番だったことでしょう。つまり、静岡市内で5番目に引かれたことになります。それほどに財力も資産もある家でした。

 昔は安東の方面には広大な地所を持っていたそうです。戦後は取られて、分配されてしまいました。

 いわゆる豪農の大屋さんです。小作人に田を貸し、家賃として持ってくる米で商売していました。売れ余ったお米の使い道として、酒造りしていたのは、他の豪農の例にもはずれません。

 終戦後は物資もなく、お酒も配給制でした。一升瓶の価値は信じられないくらいに高かったようです。今では1,000円ほどでも買えます。ところが、当時は買いたくても、買えません。食べるお米もないのに、お酒にするお米があるわけがありません。

 そんな時でもお金持ちはいるわけで、夜の遊びはしていました。お酒1本をかかえて、ニ丁町に遊びに行けば、大切なお客と扱われ、遊び放題させてもらえるほどたったようです。今の金額にすれば、10万円くらいにはなることでしょう。いい時代があったものです。

 この時の忠正社長は下戸でお酒は飲まなかったそうです。夜、遊びに行っていたか、どうかはわかりません。

 忠正からは勝海舟についての歴史小冊子や徳利などをいただいてきました。静岡市には吉屋酒造こと、忠正があったんだと心に刻んで下さい。そのことが今回のテーマに忠正を選んだ理由でもあります。

 なかなか話になる蔵元です。

 つまみはお刺身の盛り合わせを2皿お持ちしました。
 
 忠正の橋本社長が「日本酒のつまみは高価なお料理が似合う。」

 確かにお刺身の盛り合わせは日本酒以外ではあわせるのが難しいですし、似合うとなると、日本酒しかないですよね。

 忠正の場合は倒産ではなく、廃業です。心配はありません。しかし、日本酒の蔵元が一つ減ったことは事実であります。文化的にも喪失です。日本酒を大いに愛しましょう。

6月24日(水)  「日本酒と風土・三千櫻さんゲスト」第33回

 岐阜の中津川からいらっしゃいましたゲスト。三千櫻酒造さんであります。御夫婦での御登場ありがとうございました。やっぱり地酒っていいもんですよね。あの素敵な一時を振り返ってみましょう。

「三千櫻」

 お飲みいただいた三千櫻のラインナップ。
・純米生
・純米生原酒袋吊
・特別純米
・純米吟醸
・純米R

 お酒についての説明はよろしいかと思います。三千櫻は五百万石と愛山をメインに造られているようです。ボディ感、線の細さや太さにそれらの原料米の特徴が出ていると思います。

「乾杯」

 三千櫻の山田社長と奥様までもいらしていただき乾杯であります。

 

「山田社長」

 山田さんは社長であり、杜氏でもあります。

 奥様であります。美人です。まだ新婚さんと判明しましたね。

 きっかけはネットとか。

 御客様からはじまりで、コミニュケーションする間に愛がうまれたのでしょう。

「愛山」

 愛のあるのは御夫婦間だけではございません。原料米には「愛山」も使っています。愛山に関しては、こだわりがあるようです。

 山田さんの話しでは、愛山を使っている蔵元は全国におよそ30蔵くらい。

 三千櫻さんの場合、愛山を使ったお酒は、日本酒度の-2にするのが理想だそうです。

 辛口の+の方向に向かいますと、エグ味が出てしまうので、日本酒度の0〜-2の間になるようにしているそうです。

「現状」

 生産量は200石、1.8L換算で2万本。

これは限界数量ではなく、400石が限界だそうです。

 これから伸びる余地がありますね。生産量が多ければいいってものでもないでしょう。これからの三千櫻がどうなっていくのか。見守ると同時に、期待していきましょう。

 三千櫻さんの特徴のひとつに「袋吊り」がありります。

 もろみを袋に入れて吊る搾り方です。

 純米酒は1,000L吊って、お酒になるのが300Lほど。
 純米大吟醸は1,000L吊って、お酒になるのが200Lほど。

 吊り始めから吊り終わるまで、18時間かかるそうです。

 山田さんは地方からの蔵人を雇わず、自分が杜氏です。

 どのようなタイプの造りをしているのか?
 言い換えれば何流か?
 どこの杜氏の流れを汲むのか?

 それは過去にいた能登杜氏から影響を受けているようです。越後杜氏もいた時があり、教わってはいたそうです。そういう経験がミックスされて、山田さんならではの世界が繰り広げられていくでしょう。

 お酒にはロマンがあります。

「おつまみ」

 岐阜からいらしてくださったので、静岡ならではの日本酒にあうおつまみ。刺身の盛り合わせでありました。

 それから、講座でも大好評で1日講座でも度々使うそばサラダ。

 最後は記念写真をパチリ。楽しい講座となりました。

7月22日(水)  「誉富士パート2」

 静岡県のオリジナル酒米誉富士。その誉富士から造ったお酒を嗜み、誉富士について語りました。日本酒の極め方では2回目のテーマ。パート2ですね。私自身かなり勘違いしていて、申し訳ないことも発見できました。

 「誉富士」

・天虹(萩の蔵)
・小夜衣
・駿河酔(萩錦)
・臥龍梅
・高砂
・白隠正宗

 お世辞抜きに誉富士の文字がついているお酒を見ますと、どこか安心することが出来ます。これはこれのまでの飲酒経験上、誉富士から造ったお酒を飲んで、はずれがないことが理由であります。

 誉富士は前静岡県知事であつた石川氏が富士誉と命名し、富士と誉をひっくり返して誉富士となりました。我々酒業界人は命名前から、この酒米についてはいろいろと話題があったものですから、当時の呼び名であった「静系88号」に馴染みがありました。

 この講座で前回誉富士を取り上げた頃は、まだ静系88号の方がしっくりきていたのも正直なところです。それが何時の間にか、誉富士が当たり前になり、静系88号の記憶もうっすらとしてきています。そうさせてくれるのも、それなりの時間が経ってきたことと、誉富士の本当の意味合いが理解できてきたからであります。

 私が誤解をしていれば、きっと受講者さんらも誤解をしていることでしょう。私は次の様に誤解をしていました。

 要約すれば、「山田錦に勝てなければ意味がないのでは」ということです。酒米の研究開発というのは、常にこれまでにない最高級な米を追求していると思っていたのです。

 山田錦も誕生までには、相当な年月と努力があったことでしょう。私はすべての要素を山田錦と比べ、すべての要素で勝っていなければ認められないとの気持ちがありました。

 もし、誉富士の開発の目的が、山田錦を越える酒米を造るということでしたら、今の誉富士とは違っていたことでしょう。

 学者などが、企業からたくさんの融資を受けて、自由にやっていいよと、いうことになれば、山田錦を追い抜く酒米も出来るのかもしれません。

 誉富士の開発にあたっては、静岡県と静岡県酒造組合、JAなどが絡んでいます。これらの団体の方々が現実に利益になるものでなくてはなりません。同じ夢を追うのでも、夢の内容が違っていれば、すれ違いです。

 山田錦を越える酒米もいいですが、山田錦と同等な酒米であり、山田錦よりも栽培がしやすく、価格も安く、出来たお酒も美味しい、という酒米でもいいわけです。

 これが目の前の現実であり、そうなれば、農家も酒造家も愛飲家も流通関係も飲食店も有益なことがあるはずです。誉富士にはこのような背景がありました。

「静岡県の酒米の歴史」

 私は昭和56年から酒業界に入っています。今年でかれこれ28年にもなってしまいました。酒米はメジャーな話にはならなかったですが、いくつかの大きな山がありました。

 まず、酒米は大粒心白粒でなくてはなりません。食べるお米とは違います。限定されるわけです。品種も使用目的も。つぷしがききません。

 静岡県は他県の産地から酒米を買っています。時には回してもらってたりしてます。他県の産地が優先されますから、作柄が悪い時などは静岡県は不利になることもしばしばありました。静岡県でも酒米が作れればなあ。これが心の中の合い言葉でありました。

「若水」

 愛知県に若水という大粒な米があります。山田錦よりも大きいくらいです。しかも心白も出る確立が高いです。値段も手頃。これがいいのではないか。静岡県酒造組合側とも合意した静岡県とJA(農家)は若水を静岡県の推奨銘柄として造りました。できた若水は酒造元へ持ち込まれました。

 ところがです。杜氏を中心とした作り手側からは不評。さばけが悪いと言い出しました。職人が嫌がる原料を蔵元も仕入れるわけにはいきません。状況からすれば、若水は農家を裏切る形で頓挫してしまいました。

 この当時は今のように、蔵元が直接酒造に手を出すことがあまりなく、季節労働者である蔵人が製造面は仕切っていました。若水を使うことを、蔵元が判断するのですが、酒造に携わる職人の意見を取り込めていれば、このような結果にはならなかったのかもしれません。蔵人のほとんどが農家でありますから、農家同士の交流もあればよかったなあと、今でも思うことがあります。

「五百万石」

 次に持ち上がったのが、五百万石であります。石川県で生まれて、新潟で花が咲いた早生系の酒米です。新潟の五百万石は静岡県には回ってきませんでした。新潟県外には出すなとの号令があったからです。静岡県は石川県や富山県から五百万石を買っていました。今でも変わってはいません。

 新潟のお酒が人気がでました。淡麗辛口であります。静岡県のお酒も淡麗辛口へと傾きました。その原動力の一つが五百万石であります。早生系特有の線の細い酒質は軽い辛口タイプに向いています。静岡県内でも五百万石ができればなあ。誰もがそう思っていました。今でこそ、生産量を山田錦に抜かれましたが、淡麗辛口が主流の頃はダントツでトップでありました。

 新潟県から五百万石を作るにあたっての指導者も呼び、静岡県内で推奨銘柄となり進みました。五百万石は若水とは違って、それなりの評価もされましたし、成果もできました。大井川周辺では今でも五百万石の栽培は盛んです。

 静岡県全体としては、五百万石の火はいつしか小さくなってしまいました。

 その理由もいくつかあります。

 早生であるために、他の品種よりも早く実ります。すずめなどに食べられてしまう確立が高かったようです。稲穂が鳥に食べやすいように垂れ下がるなどとも言われました。

 主産地である北陸の五百万石と比べますと、値段は同等でも品質が少し劣っていました。精米した時点ではわかりませんが、吸水しますと、縦に割れる確率が多かったです。縦に割れてしまうと、酒造りはしにくくなります。どうしても静岡県産の五百万石を買い付ける理由がないわけです。

「西海187号」

 次に静岡県工業技術センターの河村先生から、静岡県には九州の西海が適しているのではないか。九州の農業を巻き込み、協力を得て、西海187号ができあがりました。これは静岡県内でも栽培しやすく、お酒としても五百万石から造られたものと同等との太鼓判がありました。

 しかし、ここで問題が発生。

 当時の規格として、酒米、酒造好適米との認定を受けるには、心白がなければいけなかったのであります。西海187号は心白がありませんでした。ここで頓挫であります。西海187号は187から「ひとはな」と呼ばれました。幻の酒ならぬ幻の酒米です。ひとはな咲かした西海に再会したい。

「誉富士」

 いよいよ次が誉富士の出番です。原子力の安全性を周知させるために、国はγ線を照射しての開発には資金を回すとの話しがあったそうです。米だけでなく、いろんな作物がγ線を当てられて、品種改良されました。米にγ線を当てて、どんな新しいお米を誕生させるのか?担当者である宮田さんのアイデアが採用されます。お酒に向くお米。つまり酒米の開発です。

 これまでの静岡県の酒米の歴史を御存知な宮田さんは、これまでの問題がないような酒米の開発をしだします。携わるすべての人達が無理なく、利益に預かる酒米。それが短稈山田錦であります。

 講座では、これから先の誉富士について語りあいました。

 如何にして守っていくのか!

 グランシップでのお披露目は好評でした。あれがあったおかげでイメージは高いところからはじめることができました。

 静岡県庁にはこめ室があり、米サポーター倶楽部の活動があります。グランシップでのお披露目もこの活動の一環でありました。このような活動をくり返してほしい。米サポーター倶楽部と平行して誉富士サポーター倶楽部を作って活動できないか。

 誉富士からお酒を造っていてよかったなあと蔵元に思わせ続けたい。誉富士ってお米から造ったお酒は美味しいんだよ。静岡の自慢の一つなんだよと、消費者に言わせたい。

 誉富士から造ったすべてのお酒が一同に会する催しができないものか。そういう啓蒙の話に盛り上がりました。

 今回使った誉富士のお酒の評価もよく、また使ってとのリクエストもいただいております。私も引き続き、本講座において、誉富士を追い掛けていくつもりであります。

 次回の誉富士をテーマにした誉富士パート3がいつになるのか。その頃誉富士はどうなっているのか。とっても楽しみな誉富士であります。御期待下さい。

 おつまみは薬膳料理でした。

8月26日(水)  「調味料とお酒の相性研究」第35回

 日本酒とお料理の相性研究はこれまでにも行なってきました。今回は調味料でした。異例のようなテーマ。私はみなさんの反応が心配でしたが、それも無用でした。みなさんのおかげで素晴らしい結果が待ち受けていたからであります。

 酒類

 日本酒をタイプ別に5種類と白赤のワインを御用意しました。全部で7種類です。

・本醸造 すっきり系 杉錦 特別本醸造
・純米 コクのあるタイプ 杉錦 山廃純米
・吟醸 香りの高いタイプ 杉錦 吟醸(中味は大吟醸)
・古酒 熟成したタイプ 達磨正宗 純米5年古酒
・樽酒 木の薫るタイプ 富士錦 純米たる酒
・白ワイン 果実香と酸味 ルバイヤート白
・赤ワイン 果実香と酸味と渋味 ルバイヤート赤

 調味料

 対する調味料は9種類。

・醤油
・醤油 + レモン
・ポン酢
・和風
・中華
・イタリアン
・コールスロー,フレンチ
・シーザーサラダ
・胡麻

 お酒 7 × 調味料 9 = 63通り

 さぞかし時間がかかるのではと思いましたが、1時間ちょいでやられた方が多かったです。相性研究にも慣れてきたようですね。

 お酒と調味料だけでは、やりにくいのではと考えて、豆腐を用意しました。

 豆腐は日本酒にも合いますし、調味料に対しても味覚的には影響しないニュートラルな食べ物であるからです。

 テーブルはこんな具合でした。彩り豊かでありました。

 63通りのの中のすこぶる相性のよかった組み合わせを聞いていきました。

 ここで、各調味料の特徴を整理しましょう。

「醤油」:大豆と麹の日本的発酵臭と熟成による香ばしさ。アミノ酸が多く、酸味と旨味が共存。
「醤油 + レモン」:醤油に柑橘系のレモンのフレッシャな香りと酸味が加わる。
「ポン酢」:醤油と柑橘系の果実に鰹節の出汁(甘味・旨味)が加わる。
「和風」:醤油+酢+油脂+ごま+アミノ酸+糖分。醤油と胡麻油をあわせた感じです。
「中華」:醤油+酢+油脂+香辛料+アミノ酸+糖分。醤油と油と辛味のある香辛料。
「イタリアン」:酢+油脂+香辛料+アミノ酸+糖分+肉系。油に酸味と肉類のコクがあります。
「コールスロー」:酢+油脂+柑橘系果汁+卵黄。マヨネーズに柑橘系果汁が加わった感じ。
「シーザー」:酢+油脂+柑橘系果汁+卵黄+チーズ+アンチョビ。コールスローにチーズとアンチョビが加わつた感じ。
「胡麻」:胡麻+油脂+醤油+酢。胡麻っぽく、そして醤油あり。

 これらを見ていきますと、それぞれの調味料の相関関係がわかります。

 醤油→レモン醤油→ポン酢
 醤油→和風→中華
 イタリアン
 コールスロー→シーザー
 胡麻

 醤油の進化系とマヨネーズの進化系があって、イタリアンと胡麻は独立している。

 今回の相性研究のポイントとして、次のことが考えられます。

 「醤油とレモン醤油とポン酢ではどうか?」
 「醤油と和風と中華ではどうか?」
 「イタリアンはどうか?」
 「コールスローとシーザーではどうか?」
 「胡麻はどうか?」

 また、単独で醤油とあうのはどんなお酒なのか?
 あるいは、吟醸酒とあう調味料は何があるのか? などなど。

 それらをみなさんの相性診断表を集計して見ていくことにしましょう。普段の生活においても、お酒の選び方や、調味料の選び方のヒントになるのではと思います。みなさんが真剣に相性診断を行なっていただきましたので、素晴らしい結果が出ました。

 次ページに集計表を書きました。

 相性診断表から導き出されることを列記します。

1. 醤油はすべての日本酒と相性がよく、特に一般的なお酒とよい。

2. 醤油と白ワインはあいにくい。

3. 醤油にレモンが加わると、日本酒はさほどの変化がないが、白・赤ワインとの相性はよくなる方向に向かう。

4. ポン酢も醤油同様に日本酒全般にあう。

5. ポン酢はワインに対しては、醤油+レモンと同じくらい。

6. 和風はすべての酒類に対して△〜○の相性を示す。

7. 中華も和風同様に△〜○だが、和風よりもポイントは低い。

8. イタリアンは一般的な日本酒とは△が多いが、樽酒と古酒については○。

9. イタリアンは白ワインとの相性はよく、赤ワインも悪くはない。

10. コールスローは意見がわかれた結果となっている。まとめてみると、すべてのお酒で○に近い。

11. シーザーもコールスロー同様に意見が割れています。そしてすべてのお酒に対して○であり、特に樽酒との相性はよいようだ。

12. 胡麻はすべての日本酒とは○で、中でも古酒との相性が良い。

13. 胡麻は 白赤ワインとは△。

14. 相性の良い順は、次です。
  1位:「純米+醤油」「純米+ポン酢」
  2位:「吟醸+醤油」「吟醸+醤油+レモン」「樽酒+シーザー」
  3位:「本醸造+醤油」「古酒+胡麻」

 みなさんが特に素晴らしい相性として選んだのは次になります。
「本醸造 + 醤油 + レモン」
「純米 + 醤油」「純米 + ポン酢」
「吟醸 + 醤油」「吟醸 + 醤油 + レモン」「吟醸 + ポン酢」「吟醸 + シーザー」
「樽酒 + 醤油」「樽酒 + ポン酢」「樽酒 + 和風」「樽酒 + シーザー」
「古酒 + 和風」「古酒 + 中華」「古酒 + イタリアン」「古酒 + 胡麻」
「白ワイン + シーザー」「赤ワイン + シーザー」

15. 相性が明らかに悪いと言えそうなのは1つ。つまり△と×しかポイントが入っていないのは、「白ワイン+醤油」。

16. 今回の9種類の調味料と一番相性のよかったのは、古酒でした。古酒は醤油系以外の洋風料理との相性がよいと想定されます。

 

 以上の結果から読み取れることは、

・醤油と日本酒は相性が良いが、油分や辛い香辛料が入ると、相性度は下がる。
・レモンはワインには特に有効だ。
・樽酒と古酒は意外性があり、未知な部分が多いのではないか?

 このようなことが今回の相性研究でわかったことだと思われます。素晴らしい結果が出ました。みなさんのおかけです。御受講ありがとうござました。

9月16日(水)  「生酒と火入れ第36回

 2月と4月に火入れしました。君盃の特別本醸造と特別純米酒。生〜1度火入れ〜2度火入れ変わっていますやら?火入れと生酒の復習とまいりましょう。

 12本ずらりと並んでいます。2本づつ6種類。6本づつ2セットであります。左から

「君盃 特別本醸造 生」×2
「君盃 特別本醸造 一度火入れ」×2
「君盃 特別本醸造 二度度火入れ」×2
「君盃 特別純米 生」×2
「君盃 特別純米 一度火入れ」×2
「君盃 特別純米 二度度火入れ」×2

 もともとのお酒は「君盃 特別本醸造 生酒」と「君盃 特別純米 あらばしり」でした。

 300ml-12本に詰め替えたわけであります。

「君盃 特別本醸造 生酒」はアルコール度が15.5゜、「君盃 特別純米 あらばしり」は原酒で17゜でした。

 詰め替え時には、アルコールで消毒もしました。

「火入れ」

 火入れしてもらいましたが、おぼえていますか?
 瓶のまま加熱殺菌する瓶火入れをしてもらいました。

 一回目が2009年1月。二回目が2009年4月。

 目的の温度に丁度するには、神経を使いますね。

 時間も予想以上にかかりました。

 加熱した直後に急冷しました。

  いつまでも高熱の状態に置いておきますと、酒質が悪い方に変化してしまいます。その後は私の丸河屋酒店のコンテナ冷蔵庫で保存しておきました。真っ暗やみの2゜〜4゜の低温下です。

「きき酒」

 6種類をグラスにそそぎました。左の3つが本醸造で、右の3つが純米です。

 右の3つは黄金色っぽくなっています。

「本醸造」

「生酒」
 しぼりたて(生酒)特有の強い香り。
 口中でアルコールを感じる。
 化学調味料の様でもある。
 甘味を有する。

「一度火入れ」
 アルコール臭、香りはシンプル
 苦味が増えた

「二度火入れ」
 落ち着きがある=個性がない=つまらない= 飽きない=一番飲める
 含み香が気持ち良い
 全体的なバランスが取れている=飲み頃

「純米」

「生酒」
 香りが強い、生熟成香=生老ね、古びた大根 などの漬け物臭

「一度火入れ」
 トゲトゲしたアルコール=焼酎のようだ
 香りがシンプル
 苦味が増えた
 生酒との段差が大きい

「二度火入れ」
 落ち着きがある=個性がない=つまらない= 飽きない=一番飲める
 含み香が気持ち良い
 全体的なバランスが取れている=飲み頃

 このようなコメントでした。まとめてみます。

 生酒についてです。
 本醸造はまだフレッシュ感を持ち合わせていますが、純米は老ねてしまっています。過熟気味であります。これは純米の方が時間によって、変化する成分が多いからです。変化しやすい成分はエキス分です。つまり旨味に相当します。本醸造はアルコール添加と加水により、エキス分が減っています。

 一度火入れについてです。
 本醸造と純米のともにアルコール臭と苦味が出ています。これは火入れに由来することだと思います。アルコール臭が前面に出て来たのは、アルコールとそれ以外が分離しそうになったためだと思われます。アルコールは揮発力が強いですから、液体から立ち上がりやすく、感じられやすいです。
 苦味は火入れによる液体の焦げにより、もともとの香味が崩れて感じてしまうこともありますし、アルコールがそれらを強調しているのかもしれません。また、アルコールそのものの甘苦味をアルコール自身が強調しているのかもしれません。
 いずれにしましても、今回の一度火入れしただけのお酒は、バランスを崩していて、まだ落ち着かないようであります。しばらく様子を見てみたいと思いました。

 二度火入れについてです。
 一度火入れよりもバランスがよくなっています。一度火入れによって生じた変化が二度の火入れで更に多きくなるのではなく、一度火入れによって生じた変化が少なくなっていました。
 これはニ度目の火入れにより、一度目に生じた変化が飛んでしまったようです。分析上のアルコール分はほんの少しの変化しかしていませんが、香味においては、かなり違ってきます。

 つまり、現時点においては、

 生酒=飲み頃(本醸造)、過熟(純米)
 一度火入れ=バランス待ち
 二度火入れ=飲み頃 と判断してよろしいのではと思います。

 

 原酒と加水では、どちらが熟成しやすいのか?

 加水した方がアルコール分が少ないので、熟成しやすいと思われ勝ちですが、実は原酒の方が熟成が進みます。これはエキス分が濃いためです。アルコールの影響よりも、エキスの影響の方が大きいです。ちなみにエチルアルコールが熟成しやすいのは、60゜近辺と14゜近辺と言われています。

 生酒、一度火入れ、二度火入れを1セットとってあります。これらのきき酒も楽しみにして下さい。


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